早稲田大学スポーツ科学学術院 スポーツ科学部教授
宮地元彦みやち・もとひこ
1965年、愛知県生まれ。88年、鹿屋体育大学体育学部スポーツ体育課程卒業。90年、同大学大学院体育学研究科修士課程修了。99年、筑波大学博士(体育科学)。川崎医療福祉大学助教授、米国コロラド大学客員研究員、国立健康・栄養研究所身体活動研究部部長などを経て、2021年から現職。日本学術会議会員。厚生労働省の『健康づくりのための身体活動基準2013』『健康日本21(第2次)』の策定などにも関わる。
2023.03.31
既に超高齢社会に突入している日本は、更に2025年には4人に1人が後期高齢者になります。人生100年時代において健康寿命を延ばすために欠かせないのが、「フレイル」対策。しかし長引くコロナ禍での行動制限などから、フレイル人口が増加し、「コロナフレイル」といった言葉も生まれています。また最近の研究では、高齢者だけでなく働き盛りの世代にも一定数のフレイル人口が存在することも明らかになりました。将来の病気や要介護リスクに直結するフレイルにどう対処するか、その効果的な対策法について早稲田大学スポーツ科学学術院スポーツ科学部教授の宮地元彦さんに伺いました。
「フレイル」とは、加齢に伴って心身の機能が低下して自立した生活が送れなくなる、その一歩手前の状態を指しています。みなさんはフレイルに当てはまっていませんか? まずは下のフレイルチェックをしてみてください。これは「簡易フレイルインデックス」と呼ばれる評価法で、該当数が3項目以上あれば「フレイル」、1~2項目の場合はフレイルの前段階である「プレフレイル」とみなされます。
「簡易フレイルインデックス」いくつ当てはまりますか?
フレイルはこれまで高齢者の問題と考えられてきましたが、実は働き盛りの世代にも無縁ではないことが、私たちが行った大阪府での調査で明らかになりました。大阪府北部の摂津市と南部の阪南市に住む40歳以上の住民9000人以上を対象にフレイルに該当する人がどのくらいいるかを調べたところ、なんと働き盛りの40代、50代でおよそ15%の人がフレイルに該当していたのです。これは60代と同等もしくはそれ以上の該当率でした(グラフ)。予想していなかった結果で、私自身、大変驚きました。
フレイル人口は、コロナ禍での行動制限や生活不活発(動かないこと)などから、以前よりも増加していると指摘されています。この調査はコロナ禍前の2018~19年に実施されましたから、今調査をするとフレイル該当率はもっと多くなっているかもしれませんね。もちろん、フレイル予備軍の「プレフレイル」は、フレイルよりも多く存在すると推測されます。
では、なぜフレイルになるのでしょうか。一般に高齢者は身体的な衰えや認知機能の低下がフレイルに陥る主な要因ですが、働き盛りの年代では社会的な問題が大きく関わっています。例えば仕事が忙しくて疲労が蓄積している、運動をしたくても余裕がない、ストレスで精神的に疲れている、などですね。また男女別にみると、男性の場合はメタボからフレイルに移行する例が多く見られます。肥満になると体を動かしにくくなったり、歩くのが遅くなったり、同じ仕事をしても疲れやすくなったりして、フレイルにつながるわけです。一方、女性の場合はやせによるフレイルが多く、貧血や月経不順などの体調不良を伴っている場合もあります。逆にいうと、若い頃からメタボや糖尿病などの生活習慣病があったり、過度なダイエットによりやせて貧血や月経不順などを抱えていたりする人は、やがてフレイルやプレフレイルへと進む予備軍ともいえるわけです。
働き盛りの方はたとえ自分がフレイルに該当していても、「疲れているだけだ」などと考えて、フレイルであることを自覚していない方がほとんどです。しかし、その状態をそのままにしていると将来が大変です。フレイルの人は心身の機能が低下して、人よりも早く介護が必要な状態になったり、寿命が短くなったりすることが多くの研究結果からわかっています。だから放置していてはいけないのです。フレイルは病気ではなく、その手前の状態なので、元の元気な状態に戻すことができます。そもそも生活習慣によって作られるものですから、その生活習慣を見直すことで改善できるのです。食事や運動、睡眠、休養、社会とのつながりなど、できるところからでいいので生活を見直してみてください。例えば、食事のときはたんぱく質を少し多めに摂るように気をつける、外出の回数をちょっと増やして体を動かす、友人と会っておしゃべりをする、といったことからでもよいのです。先のフレイルチェックで「フレイル」や「プレフレイル」に当てはまった方は、今日から早速、フレイル対策を始めましょう。
1965年、愛知県生まれ。88年、鹿屋体育大学体育学部スポーツ体育課程卒業。90年、同大学大学院体育学研究科修士課程修了。99年、筑波大学博士(体育科学)。川崎医療福祉大学助教授、米国コロラド大学客員研究員、国立健康・栄養研究所身体活動研究部部長などを経て、2021年から現職。日本学術会議会員。厚生労働省の『健康づくりのための身体活動基準2013』『健康日本21(第2次)』の策定などにも関わる。