コラムメインビジュアル

既に超高齢社会に突入している日本は、更に2025年には4人に1人が後期高齢者になります。人生100年時代において健康寿命を延ばすために欠かせないのが、「フレイル」対策。しかし長引くコロナ禍での行動制限などから、フレイル人口が増加し、「コロナフレイル」といった言葉も生まれています。また最近の研究では、高齢者だけでなく働き盛りの世代にも一定数のフレイル人口が存在することも明らかになりました。将来の病気や要介護リスクに直結するフレイルにどう対処するか、その効果的な対策法について早稲田大学スポーツ科学学術院スポーツ科学部教授の宮地元彦さんに伺いました。

前回

連載企画第二話
フレイル対策のカギは
「たんぱく質」と「筋肉」

たんぱく質を1日10gプラス

日本人のたんぱく質摂取量は2000年頃から急減し、現在は戦後間もない1950年代と同程度にまで低下しています。フレイルやプレフレイル予防には、減ってしまった分のたんぱく質をしっかり摂ることが欠かせません。
毎日の食事でたんぱく質を摂るポイントは大きく2つあります。摂取する「量」と摂取する「タイミング」です。まずは摂取する量についてですが、前のページでご紹介した研究結果のように、体重1kg当たり0.1gのたんぱく質を今の食事に加えるのが目安になります。例えば体重が50kgの方なら1日に+5g、60kgの方なら+6gということですね。あるいは計算をしなくとも、意識を高く持って「1日に10gプラスする」と意識しておくのでもかまいません。とにかく、今よりもたんぱく質を少しでも多く摂る、それを心がけてほしいですね。
また、1日の摂取量の目安としては、健康な体を維持しフレイルを予防するという観点で、少し多めに摂ることを意識して「体重1kg当たり1.3gを目安にたんぱく質を摂取」できると良いかもしれません。

日本人の1人1日当たりのたんぱく質摂取量の年次推移(総量)のグラフ
1日当たりのたんぱく質摂取量は1990年代をピークに2000年頃から急激に低下、戦後の1950年代と同水準になっている。背景にはダイエットブームやメタボ対策、独居高齢者の増加などによる摂取カロリー全体の低下があると考えられる

朝食でしっかりたんぱく質を

次にタイミングですが、朝食で摂るたんぱく質を増やすことがとても重要です。多くの人は1日で摂るたんぱく質の約半分を夕食で、約4割を昼食で、そして約1割を朝食で摂っています。3食で摂る量のバランスが悪く、特に朝食でのたんぱく質摂取量が圧倒的に少ないのが現状なのです。朝は前日の夕食から絶食状態が長く続いていますから、朝食で摂るたんぱく質が少ないと、たんぱく質不足が昼食まで続いてしまうことになります。

すると、どういうことが起こるでしょうか。たんぱく質は20種類のアミノ酸で構成されていますが、この中でも筋肉の合成を促す作用が特に強いのが、ロイシンという必須アミノ酸です。朝食でたんぱく質を十分に取らないと、このロイシンも減ってしまい、筋肉の合成が進みません。その結果、筋肉が分解されてエネルギーに変えられてしまい、筋肉量が減ることになります。

ですから、朝は意識してたんぱく質を多く摂ることが重要です。肉や魚の料理を一品加える、あるいは忙しい時間帯ですから、ゆで卵や牛乳、ヨーグルト、チーズなど、手軽に摂れるものをプラスするのもおすすめです。コーヒーに牛乳を入れてカフェラテにするだけでもいいのです。それだけで5g程度のたんぱく質が摂れます。ぜひ明日の朝から実践してみてください。

なお、先にご紹介した大阪府摂津市では、フレイルと判定された方々に食事と運動の保健指導を行いました。指導内容は、朝食でのたんぱく質の摂取量を増やし、1日に合計10gのたんぱく質をプラスすること、そしてスクワットや腕立て伏せなどの筋力トレーニングを1日10分程度行うというものです。たんぱく質も運動も、どちらも「プラス10」というわけですね。その結果、2か月ほどで6~7割の方がフレイルから抜け出すことができました。

やればきっと改善します。フレイルやプレフレイルが遠ざかります。みなさんもぜひトライしてみてください。

PROFILE

早稲田大学スポーツ科学学術院 スポーツ科学部教授 宮地元彦 プロフィール画像
早稲田大学スポーツ科学学術院 スポーツ科学部教授

宮地元彦みやち・もとひこ

1965年、愛知県生まれ。88年、鹿屋体育大学体育学部スポーツ体育課程卒業。90年、同大学大学院体育学研究科修士課程修了。99年、筑波大学博士(体育科学)。川崎医療福祉大学助教授、米国コロラド大学客員研究員、国立健康・栄養研究所身体活動研究部部長などを経て、2021年から現職。日本学術会議会員。厚生労働省の『健康づくりのための身体活動基準2013』『健康日本21(第2次)』の策定などにも関わる。

一覧に戻る