人口のボリュームゾーンである団塊の世代が後期高齢者になる2025年が差し迫っています。国家予算の3分の1は社会保障に使われ、介護費用は現状の10兆円から21兆円に膨らむとの予測もあるほどです。超高齢社会に突入しており、疾病・介護予防、健康寿命延伸のために今、必要なこととは? 栄養学の立場から、この社会課題を解決するための食生活のポイント、その中でもとりわけたんぱく質を意識的に摂ることの重要性について、公益社団法人日本栄養士会会長の中村丁次さんに伺いました。

前回

連載企画第二話
「たんぱく質」の積極的摂取で
2つの栄養課題を同時に解決!

健康のためには、たんぱく質を多めに

たんぱく質は体を作り、健康に生きていく上で欠かせない栄養素ですから、毎日の食事で十分量を摂ることが大事です。特に、高齢の方ややせた女性、また働き盛りでもすでにフレイルやその予備軍である“プレフレイル”に当てはまる方は、今よりももっと摂取量を増やす必要があります。

メタボで高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病を持っている方も、たんぱく質だけは必要な量を確保するようにしましょう。ダイエットをする場合、栄養バランスを考えずに摂取エネルギーだけを減らすと、筋肉も落ちて基礎代謝が低下し、逆に太りやすい体質になってしまいます。そしてリバウンドをするたびに脂肪だけが増えることになります。ダイエットをするなら、たんぱく質を十分摂って運動も行い、筋肉を増やすよう心がけてください。

また若くて持病がなく、メタボでもやせでもないという方も、健康維持のため、たんぱく質はしっかり摂るよう意識しておきましょう。つまり、たんぱく質は年代、性別、体重に関係なく、しっかり摂取すべき栄養素だということです。ただし、腎臓の悪い方はたんぱく質の制限がありますから注意してください。持病のある方は管理栄養士に相談して、食事指導を受けるようにするといいですね。

では、毎日どのくらいの量のたんぱく質を摂ればいいでしょうか。おおまかに言うと、体重1kg当たり1gのたんぱく質が基本となります。例えば体重60kgの人なら、1日60gです。ただ、できればもう少し多めに60~80gくらい摂るのがおすすめです。ちなみに私は来年、後期高齢者の仲間入りをしますが、毎日だいたい80~100gは摂っています。今も現役で仕事をしていますし、ジムに行って運動をしたり、時々はスキューバダイビングもしますから、多めに摂るようにしているのです。高齢になると筋肉を合成する力が低下するので、たんぱく質は多めに摂る必要があります。なお、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」に、身体活動レベル別たんぱく質摂取の目標量が示されていますから、参考にされるといいでしょう。

肉、魚、卵、大豆食品、牛乳・乳製品のどれか1つを毎食、食卓に

たんぱく質の摂り方のコツですが、朝昼夜の3食で均等に摂るのを意識するのがいいですね。2食にすると十分量が摂れませんし、1食分が多くなって消化吸収に負荷がかかります。たんぱく質が多い食品の代表選手は、肉、魚、卵、大豆食品、牛乳・乳製品。これらのどれかを毎食必ず摂るようにすると、1回にだいたい20~30gのたんぱく質が摂れます。例えば、朝は卵、昼は魚一切れ、夜は肉を70~80g程度と豆腐を3分の1程度。牛乳・乳製品はどのタイミングにプラスしてもOKです。それを主菜に、ご飯と野菜、海藻、きのこ料理、果物などを1、2品加えれば必要な栄養素はだいたい摂れます。なお、牛乳は手軽に良質のたんぱく質を補えますから、ぜひ冷蔵庫に常備しておき、1日にコップ1杯は飲むようにするといいでしょう。

間食もおすすめです。食事のとき、一度にたくさんの量を食べると消化管への負担になるだけでなく、食後の血糖値も上がりやすくなります。まとめ食いより、ちょこちょこ食べる方が健康にいいという報告もあるほどです。食事でのたんぱく質の量が足りないなと思われるときは、間食でチーズなどの乳製品やゆで卵、アイスクリームなどを摂るのもいいでしょう。

若い方にとっても高齢の方にとっても、たんぱく質は健康な人生を送るための頼りになる味方です。「もっとたんぱく質を!」を合言葉に、毎日の食事をぜひ見直してみてください。

出典:「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
出典:日本人の食事摂取基準(2020年版)「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告会を参照

PROFILE

公益社団法人日本栄養士会会長 中村丁次 プロフィール画像
公益社団法人日本栄養士会会長

中村丁次なかむら・ていじ

1972年、徳島大学医学部栄養学科卒業。新宿医院、聖マリアンナ医科大学病院栄養部勤務を経て、1985年、東京大学医学部で医学博士取得。聖マリアンナ医科大学病院栄養部部長、神奈川県立保健福祉大学教授・栄養学科長を経て、2011年より2023年3月末まで学長を務める。公益社団法人日本栄養士会会長。専門は臨床栄養学、栄養政策、栄養教育。『中村丁次が紐解くジャパン・ニュートリション』(第一出版)など著書多数。

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